滞日ムスリムの生活・アイデンティティ・宗教実践(論文)

日本国内に居住しているムスリムは、筆者の推計によると、2018年6月末時点で、約20万である。内訳は、外国人ムスリムが約15万7千、日本国籍のムスリム(日本人ムスリム)が約4万3千である[店田2019:260]。
滞日ムスリムの社会経済的属性、日常生活や宗教実践などの実態については、学術論文や新聞報道などによって、把握できるところもあるが、その内容が滞日ムスリムを代表するものとなっているのか否かは、よく分からないのが現状である。例えば、欧州のムスリム研究[Sakaranaho2006:208-213]では、ムスリムとはいえ、「社会的文化的ムスリム」、「組織化されたムスリム」や「家庭内(プライベート)ムスリム」など多様であり、宗教実践や食の規範に拘泥しないムスリム、日常的にモスクなどイスラム団体に参与しているムスリム、私的な場面だけで宗教実践を行うムスリムなど様々である(1)。2011年のフランス世論研究所による調査によれば、「信者だが宗儀は行わない」ものが約35%という報告もある[宮島2017:24]。日本に居住するムスリムでも多かれ少なかれ同じような状況がみられると考えられる。ムスリムに限ることではないが、多様な属性と多様な宗教との関わりを持っている人びとが現実の滞日ムスリムであろう。


このような多様なムスリム全体を母集団として、社会学的な手法により調査研究が出来れば、日本に住んでいるムスリムの生活と意識の多面的な姿を描き出すことが出来るかも知れない。しかし、日本の国勢調査など公式統計では信仰に関する項目はなく、個人の信仰を指標として対象者を特定した上で、調査を設計することは難しい。日本のムスリムに関するこれまでの調査でも、有意抽出によって対象者が決定されているケースがほとんどである。

本稿では、日本に帰化したムスリムを母集団として調査対象者を抽出し、日本に住んでいるムスリムの実像を描き出すことを試みた。母集団は、さまざまな属性やさまざまな宗教実践を行っているムスリムが含まれうる、帰化したムスリム約2千人であり、そのうち世帯主と思われる対象者を抽出して質問紙調査を実施した。