地方自治体におけるムスリム住民に対する多文化共生施策の現状

滞日イスラム教徒(ムスリム)が、増加している。2016年末時点の滞日ムスリム推計人口は、17万(外国人13万、日本人4万)であった。その2年半後の2018年6月末現在で、外国人ムスリム人口を推計したところ、3万近く増加し約16万となった。
今後、在留外国人人口の増勢が続けば、滞日ムスリム人口が20万を突破することは確実である。2018年末現在、国内には100箇所を越えるイスラム礼拝所(モスク)が開設されており、モスクを中心として様々な社会的・文化的活動や宗教的活動が展開されている。しかし、モスクを拠点とする活動が地域住民の知るところとなっているか否かは地域によって異なり、モスクの存在が知られていないことも多い。後述するように、全国95の地方自治体(以下では、自治体と表記)にモスクが開設されていると考えられるが、自治体が認識していないケースも少なくない。

本稿は、モスクが所在する自治体を対象とする多文化共生施策に関する調査に基づいて、多文化共生施策の実態と課題および自治体のモスクやムスリム認識、自治体とムスリムとの交流の実態を明らかにして、今後の自治体とムスリムやモスクとの関係が抱える課題について考察する。

以下では、ムスリム人口分布を確認し、モスクの都道府県別の開設状況を紹介する。その後、自治体の多文化共生施策の策定に至る経緯を概観し、「自治体における多文化共生施策の現状と課題に関する調査」に基づいて、モスクが所在している自治体の多文化共生施策の現状を報告する。
これら自治体が、モスクを認識しているか確認し、モスクやムスリムに対する施策の現況を明らかにしたい。本稿では、自治体とモスク間の連絡・交流の有無等に着目し、両者間の関係構築について考察する。なお文中では、モスクが所在する自治体を「モスク自治体」とする場合もある。